Asia特集&コラム

キャリアマネジメント

Lesson03.エンプロイヤビリティを高めるために

〝雇用に値する自分の能力を高める〟

今では、世界的に知名度が高い、グローバル企業、HP・ヒューレットパッカード社。
そのHPでも以前、アメリカの経済不況で工場閉鎖によるレイオフ(解雇)をせざるを得なくなった時がありました。
HPは、アメリカ企業では珍しく、社員をレイオフしない会社で、その当時の社員にとっては、本当に突然の解雇となってしまいました。
ある日、その当時のCEOのループラット氏に、退職した社員から一通の手紙が届きました。

ループラット様

それがきっかけとなり、その後、HPは人事制度改革を経営の最重要課題として捉え、社員個人の自立を支援する仕組みを構築しました。
HPはトップのコミットメントにより経営の透明性、人事評価の透明性を高め、「個人のキャリア開発は自己責任である」ということを啓蒙することで、個人の自立を即し、社員の意識改革とキャリア開発制度を実現したそうです。
これを聞いて、私は、当時のCEOが退職者からのメッセージを大切に受け止めて、経営課題へ反映させたことが凄いと素直に思いました。
また、企業は人なり、経営者の人の温度を感じるエピソードだと思います。
今後、実践的な戦略的キャリア・デザインの方法を、解説していく前に、最近の企業のキャリア開発についての課題は何なのか?
また、これからも働く皆さんにとって、大切な自分の「雇用され得る能力」を高めていくために必要なことを皆さんにお伝えします。


グローバル化・IT化が与える影響

旧日本型人事制度は、社員の長期安定雇用を保障することで企業へのロイヤリティ(忠誠心)を高めるとともに、企業内の固有の知識や技術を長期にわたって蓄積し、向上し続ける点で有効でした。
このシステムの背景には、高度経済成長期においての経営は過去からの延長線上にあり、経営のための知識や技術は経験による差が大きかったと言えると思います。
また、欧米の優れたノウハウを取り入れてきた知識や技術の開発のためには、継続的な改良や改善が必要で、企業の資本力も必要でした。
しかし、今日、グローバル化、IT化の進展の影響が、私たちの予想以上に急速に押し寄せており、社員個人に技術や知識が蓄積される旧日本型人事システムはむしろ、変化に対応する障害にさえなりはじめており、具体的には次のような障害を引き起こしているようなのです。

  1. 囲い込みによる社員の固定化は人件費コストを膨張させ、グローバル市場のなかで闘っていくうえで、企業が外資系企業との競争優位性を持ちにくくする。
  2. 過去の延長線上にある知識・技術の蓄積は、事業構造の転換などによる変化の時には、新しいノウハウの吸収を難しくする。
  3. 年功序列をベースにした人事制度は、仕事・能力・報酬の関係に対する意識を希薄にしてしまい、業績が高い人に不公平感を与えるため、優秀人材が他社に流れてしまうリスクがある。
  4. ローテーションOJTによる、ゼネラリスト、マネージャー育成では、本人の専門性の高い能力が開発できないこと。
  5. 企業依存的な能力開発では、会社が社員個人の自律化を妨げ、「自己責任」による市場性の高いキャリアが作りにくく、会社にとっては、市場性の低い社員を長年、抱きかかえてしまう形での雇用になりやすい。

このようなことが、企業、組織の個人の自律、組織の活性化への障害となる影響を与えており、現実にシンガポール支社でも、悪影響が組織内の現象として起きている企業が少なくありません。


エンプロイヤビリティの向上とキャリア開発

シンガポールで働いていると、職業に対する意識が、ナショナルスタッフと自分たち日本人との違いに誰もが気がつくと思います。

シンガポールの人達の職業意識は、日本人のこれまでの「就社」意識とは違い、欧米系の「就職」の意識と相似しており、自分の市場価値を高めるためには、どの会社で働いて、どんな経験を積んで、どんな専門知識を習得したらいいのか?という自己のキャリア開発の意識がとても高いです。
働きながらも、さらに自分の仕事の専門性を磨くために、多くの人が、平日の夜や週末に社会人向けの学位取得コースのある学校に通っています。
平日の夜10時過ぎ頃になると、シティのあちこちのバス停、タクシースタンドでは、夜間のクラスを終了して帰宅の途につく、厚いテキストブックを持った20代~40代の働く社会人学生たちで、ごった返します。

シンガポールの社会人の人達は、会社での実務OJTと並行して、新しいビジネススキルや知識を高め、自分のエンプロヤビリティを高める。
すなわち、自己の市場価値を高めるために自己投資をしているわけです。
高学歴社会を背景に、個人の技術や知識を高めて業績が上がれば、組織の業績も上がるから、自分の年収も上がるというわけです。
日系企業においても、これからの人材開発は個人が自律的にキャリアを開発し、企業や組織が彼らのキャリア開発の取りくみを人事評価の視野にいれて、サポートしていくことが必要なのです。
シンガポールの政府は、このようなキャリアプログラムの導入を積極的に企業へ支援しており、職業研修への助成金も用意しています。また、会社からの継続的な社員の教育支援で、個人のキャリアアップの実感を持たせることができ、社員もその会社で働くことにやりがいや、自己成長を自覚することができるのです。
また、自分で選択した研修や講座費用を、社員へのベネフィットとして会社がサポートすることで、上昇志向の高い社員がその会社で働き続ける動機づけの一つとしても機能しているようです。

エンプロイヤビリティの向上

エンプロイヤビリティの向上を目指した社員のキャリア開発の仕組み

【参考文献】

  • 自分のためのキャリア・リセット 実践キャリアカウンセリング研究会
  • 個を活かし企業を変える Globis Management Institute
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